【俺ガイルSS】雪ノ下「比企谷君、今からティーカップを買いに行かない?」

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1 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 2013/08/21(水) 01:27:04.23 ID:DdghrasH0
「よう…」

俺を見るなり雪ノ下雪乃は深いため息をついた。
「はぁー…… 今日は比企谷くんしか来ないことはわかっていたのに…… 期待してしまった私が馬鹿だったわ……」
こめかみのあたりに手を当て、まるで痛恨のミスをしでかしたような仕草を見せる。

「うっせー」
いつも俺の方が由比ヶ浜より先に来てるじゃねーか。

その由比ヶ浜は昼前に体が熱っぽいと言って早退した。
由比ヶ浜から、何あのヒエログリフもどきがいっぱいの頭の悪そうなメールを受け取ったのだろう。
2 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 2013/08/21(水) 01:29:15.23 ID:DdghrasH0
「今日は私たち二人だけのことだし、もうお茶の時間にしましょう」

ガラス製のティーポットに湯を注ぎこむ音が聞こえてくる。
すっかりと奉仕部の日常となった。

そう、最初はティーカップに、次はマグカップに、最後に紙コップに注がれて…

ジャー  --

突然、陶器のポットに煎れたての紅茶が注がれる音が聞こえてくる。
予想外の音に驚いて顔を上げると雪ノ下と目が合った。

「紙コップが切れてしまったのよ」
雪ノ下は、そう言いながらポットに保温用のカバーをかぶせた。

3 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 2013/08/21(水) 01:32:12.29 ID:DdghrasH0
-昨日のことだ。
「ひ、比企谷君…… そ、そのゴキブリをどうにかなさい。あなた仲間でしょ……」

ついに俺もゴキブリ扱いされてしまった。
あまりにも理不尽だ。理不尽すぎる。

すでに帰り支度の終わった俺はそのまま無視して帰ろうとする。

「ヒ、ヒッキーひどい… ゆきのんがちゃんとお願いしているのに無視するつもり」
雪ノ下と由比ヶ浜は、互いのブレザーの袖をつかみあいながら震えていた。

どこがちゃんとしたお願いだ?
思いっきり罵倒しているじゃねーか

「ったくー…… 今退治するからおとなしくしていろよ」

4 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 2013/08/21(水) 01:34:45.84 ID:DdghrasH0
-格闘すること数分。
箒ではたかれてすでにこと切れたゴキブリをポットの横に置いてあった紙コップで掬い取り、窓から放り棄てた。
ああ… そういえば、あの時使ったのは最後の1個だったな。

悪い、何も考えないで使ってしまったから、お前だけでも飲めよと言おうと思っていたら、思いもかけない言葉を耳にした。
「私一人だけ飲むわけにはいかないじゃないの」

いつから俺にこんな気遣いをするようになったんだ、雪ノ下は。
それなら、普段もっと俺にかける言葉にももっと気を遣ってくれてもいいんじゃないの?

雪ノ下は、顎のあたりに手を当てて考え込んだのち、こう告げた。
「比企谷君、今からティーカップを買いに行かない?」

5 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 2013/08/21(水) 01:41:06.80 ID:DdghrasH0
紅茶を煎れるのが趣味だというだけあって、雪ノ下が出してくれるのはおいしい。
確かに紙コップで飲むのより、ティーカップで飲んだら雰囲気も違ってさらにおいしいものになることだろう。
でも、俺は由比ヶ浜とは違って、好き好んでこの部活に入ったわけではない。
この部屋にマイカップを置くってことは、俺が奉仕部に入れられてしまったことを肯定してしまうことになってしまう。

「帰りにコンビニで紙コップ買ってくるから気にするな」

「紙コップって持つ時熱いのよ。紅茶を煎れる私の身にもなって」

「熱いんだったらコップの上の方を持てばいいだろ」

「嫌よ。私が持ったところに比企谷君の唇がつくと思うと… 気持ち悪い。」

ふと雪ノ下の指に目が行ってしまう。
細くしなやかに伸びる指。
雪のように白く透き通っている。

でも、こいつの場合かしづかせて手の甲にキスをさせ、服従を誓わさせられそうでなんか怖いな…
しかも、それが妙に様になっていそうで、俺の理性も吹き飛んでしまうかも…

「比企谷君、私の指を見てまた何か変な妄想をしていない? セクハラで訴えるわよ。気持ち悪い。」
手をネコ型ロボットのようにグーにして、胸元に押し当てている。

やがて、その手をグーのまま下ろして再び口を開く。

「ところで、その… 紙コップが切れてしまったからだけではないの… あの… あなたにはいろいろと助けてもらったわけだし…
そ、その… お礼がしたいのよ…」

6 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 2013/08/21(水) 01:48:19.83 ID:DdghrasH0
「別にお前に礼を言われるようなことなんて何もしてねーよ」
事実、俺は何もしていない。
雪ノ下に非難されるようなことはしてきても、感謝されることなど何一つしてきてはいないのだ。

「でも… それでは私は… 」
「気にするな。俺は金欠だ。財布の中に400円しかない。ティーカップなんて高価なものどころか、マグカップだって買えやしない」
小町め、妹を愛する兄の気持ちに付け込んでおねだりしやがって。
このシスコン殺しのおねだり上手が。
おかげで、小遣い日まであと半月もあるのにひもじい思いをしないといけないじゃないか。
昼飯のあとのMAXコーヒーが飲めないなんて悲しすぎるだろ?

7 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 2013/08/21(水) 01:52:55.70 ID:DdghrasH0
「比企谷君、あなた馬鹿? 私が礼をしたいと言っているのよ。あなたは私からカップを受け取ればいいだけなのよ。それに、あなたに合った腐ったようなカップを見つけることは容易ではないのよ。」
なんだこいつは。
俺はそもそも雪ノ下から礼をされる覚えはない。
そう言っているのに何逆ギレしているんだ。
しかも、なんで貶められないといけないの?

「そもそも修学旅行のときにあなたが…」
雪ノ下は、突然語気を強めたかと思うと、手をもじもじとさせて急に黙り込んだ。
うつむき加減に目をそらしている雪ノ下の顔は、秋の早い夕日に照らし出されたせいか赤い。

修学旅行の三日目の晩に雪ノ下を怒らせてしまったことをふと思い出してしまった。
あの時の雪ノ下の表情といったら…
よせよせ、俺は過去を振り返ったりしないんだ。
ちょっと惨めになるじゃねーか。
8 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 2013/08/21(水) 02:07:15.70 ID:DdghrasH0
なおも食いついてくる雪ノ下に根負けした俺は、一緒にティーカップを買いに行くことにした。
「ちょっと待っててくれ」

急いで自転車を用意して戻ってきた。
「じゃ行くか」
雪ノ下に追いつきざまに声をかけるが、そのまま追い抜いてしまった。
振り返って、
「おい、早く行かないのか」
そう声をかけるが、雪ノ下は歩き出そうとしない。

9 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 2013/08/21(水) 02:08:59.65 ID:DdghrasH0
「その……、一緒にいるのを見られると、ちよっと……」
いつかも聞いたことのあるセリフだ。
こうなったときの雪ノ下は埒が明かない。

「お前が誘ったんだろ。それにどこに行くのかも聞いていない。さらにお前が迷子になったらどうやって連絡とるんだよ」
そう、俺と雪ノ下は互いに携帯の番号はもちろん、メアドの交換をしていない。
方向音痴も甚だしい雪ノ下が迷子になってしまったら、どうするんだよ。

今頃家で寝ているであろう由比ヶ浜にでも訊くつもりか。
小町だってお前の連絡先は知らないし…… まさか、平塚先生にでも電話するつもり?
そんなことにでもなったら、電話とメールの着信がものすごいことになっちゃうよ… それだけはやめてくれない?
平塚先生、どんだけ俺のこと好きなんだよ… 誰か早く貰ってやってよ……

10 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 2013/08/21(水) 02:10:56.44 ID:DdghrasH0
「そうね……、誠に遺憾だけど、……一緒に行きましょ」
そう言うと雪ノ下は、俺を追い抜いていく。
毎朝小町にそうしているように雪ノ下を後ろに乗せても良かったが、俺は雪ノ下のあとを自転車を押しながら追っていった。

駅に自転車を置いて京葉線に乗った。
隣同士に座ったが、特に会話はない。
互いにぼっち同士、こうしているのがベストの選択だ。
誰が見てもたまたま隣り合って座った2人しか見えない。
これなら雪ノ下も誰も気にすることはないだろう。

16 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 2013/08/21(水) 03:36:53.55 ID:DdghrasH0
京葉線を下車して歩くこと数分、目指していたと思われる場所に着いた。
雪ノ下の動きからそのことがわかった。
いつしか、小町と3人で来たことのある場所だ。
あの時は、陽乃さんに絡まれるわ、由比ヶ浜に勘違いされるわで散々だったな。

雪ノ下は、迷子の仔猫のようにきょろきょろしながら進む。
俺は、そのあとに従う。
あまりにも挙動不審なほどに前後左右を気にするようだったら、そのときはどこへ行きたいのか
声をかけてやろうと思っていた。

しかし、それは杞憂に終わり、紅茶専門店の前で雪ノ下は立ち止った。

17 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 2013/08/21(水) 03:39:33.34 ID:DdghrasH0

「ここよ」
さすが紅茶好きの雪ノ下だ。
よくとまではいかなくても、たまに訪れてはいろいろとチェックしているのだろう。
さっきの迷い方で、なんとなくそんなことがわかった。

店内に入ると雪ノ下は、物色し始める。
俺は、適当にその辺のものを眺めている。
MAXコーヒー命の俺には、見慣れない嗜好品がいろいろとある。
さすが英国紳士や貴婦人が嗜むだけのことはある。

そう感心していると、ふと雪ノ下が視界から消えていたことに気付いた。

18 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 2013/08/21(水) 03:42:41.43 ID:DdghrasH0

「雪ノ…」
雪ノ下の姿を見つけた俺は一瞬声をかけるが、すぐにやめた。

雪ノ下雪乃は、真剣なまなざしでただ一点だけを見つめていた。
口許に手を伸ばし、なにやらブツブツと独り言を言っている。

「これにしようかしら……、でもそれだと……、いいえ……、やっぱりこれに……」
意を決して手を伸ばそうとする。

しかし、急にそわそわし始めて右を向き、左を向いた。
そして、雪ノ下の美しい横顔に見惚れていた俺と目が合うと何事もなかったようにすっと手を引っ込めた。
前にもこんなことがあったな……

19 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 2013/08/21(水) 03:45:47.32 ID:DdghrasH0

顔をそむけた雪ノ下は、ややしばらくすると、今度はいつものようにジト目を向けてきた。
それを無視するように近づいていく。

「比企谷君、何?」

「何かいいものでも見つかったのかと思ってな」

しらっとそんなことを言いながら、さらに雪ノ下に近づいた。
そして、ほどよい距離感のところで立ち止った。

20 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 2013/08/21(水) 03:48:35.58 ID:DdghrasH0

「じゃあ俺、それにするわ」

「へっ……? 本当にこれでいいの…?」

「だってお前が選んだんだろ?」

「いえ、私はまだその……」

雪ノ下はまだ何か引っかかることがあるのか、歯切れが悪い。
俺がお前のために何をしてやったのかは知らないが、俺なんかのために時間を費やすのは、
人生の駄使いっていうもんだろ…

雪ノ下が決断できないのであれば、俺が解を示したっていいだろう。

「それでいい……、いや、それがいい」

21 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 2013/08/21(水) 03:51:30.47 ID:DdghrasH0

「そう……、それじゃあ会計を済ませてくるわ」

さっと背を向けてレジに向かっていく雪ノ下。
彼女がどんな表情をしているかはわからない。

ひょっとして、俺が選んだのって自分用に買おうと思っていた高価なものなの!?
もしかして怒ってるの?

明日になって法外な金額の請求書を手渡されたりしない?
いや……、俺知ーらない……

22 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 2013/08/21(水) 03:54:04.71 ID:DdghrasH0

先に店を出て、店先の小物を前のめりになって眺めていると、すっと紙袋を持った腕が目の前に
延びてきた。

「はい、お礼…… 比企谷君受け取って。明日部室に持ってくるのよ……」

雪ノ下の表情を確かめたかったが、気が変わらないうちに早く受け取れと言わんばかりに腕を
さらに突き出す。

「ありがとよ」
と一言礼を述べて素直に好意を受け取った。

24 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 2013/08/21(水) 04:04:20.25 ID:lPcSxxo/0
紅茶のお供に甘デレのん・・・最高だな!

期待してます

26 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 2013/08/21(水) 06:38:14.93 ID:DdghrasH0

これで用は済んだ。
もうこれ以上、雪ノ下とここにいる理由はない。
再び互いに無言で歩き始めようとすると、不意に雪ノ下にそっくりな声に呼び止められた。

「あらー雪乃ちゃんじゃないの。それに比企谷君も」

「あー、2人してこんな時間にこんな場所で一緒にいて、ねーデートなんでしょ……、このこの……」

いつもの調子で陽乃さんは、肘で俺をつついてくる。

「デートじゃないわ」

「デートじゃねーって」
「2人ともやっぱり息ぴったりじゃない」

27 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 2013/08/21(水) 06:39:53.49 ID:DdghrasH0

「姉さん、何度言ったらわかるの? なんでこんなのとデートしなければならないの?」

雪ノ下の発言には、全くもって同感なのだが、どうしていつもこういう扱いを受けなきゃならないの?
八幡そろそろ心が折れてしまいそう。

「もうこんな時間だし、そろそろ帰りたいのだから、用がないならさっさと行って」

「雪乃ちゃんのいじわる。どうして、お姉ちゃんにそんなことばかり言うの。でも、今日は用事かあるから
もう行くわね。比企谷君も雪乃ちゃんを泣かせたら、お姉ちゃん許さないわよ……」

陽乃さんは本当に急いでいたようである。
おかけで、俺が手にしている紙袋については、まったく触れられることはなかった。

28 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 2013/08/21(水) 06:44:09.37 ID:DdghrasH0
台風一過である。
再度沈黙の時間が始まる。
俺と雪ノ下は、陽乃さんの瞬間最大風速的な登場について特にコメントすることなく、再び歩き出そうとする。

「くしゅん!」

その時、雪ノ下が普段のイメージとは似つかわしくないほどのかわいいくしゃみをした。
もう冬の始まりだ。

季節の変わり目は風邪をひきやすい。
「由比ヶ浜は風邪を引かない」ってことわざがあるくらいの奴が早退するくらいだ。
いくら氷の女王とはいえ、急激な温度変化には弱いのだろう。

気づけば、俺も肌寒く感じていた。
いつもはとっくにもう家に帰って小町の手料理を食べ終えている頃だ。

こんな時間に出歩くことを前提にしていない俺も雪ノ下も初冬の晩にしてみれば薄着であった。

29 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 2013/08/21(水) 06:46:44.98 ID:DdghrasH0

「雪ノ下、寒いのか?」

「いいえ、大丈夫よ」

「風邪を引いても困るし、なんか温かいものでも飲んでいかないか?」

「あなたさっき400円しか持っていないって言っていたでしょう。私にティーカップ買わせた上におごら
せようとするとは、さすがヒモになりたいって言うだけのことはあるわね」

「うっせー、ヒモじゃない! 専業主夫だっつーの。今ATMで金下ろしてくるから、そこで待ってろよ!
とにかくそこから動くなよ」

30 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 2013/08/21(水) 06:49:58.35 ID:DdghrasH0

全力疾走でATMまで行って金を下ろす。
いざというときのためにお年玉の残りを貯金していたが、思わぬところで使うことになった。

こりゃ、ますます小遣い日が待ち遠しいな……
いざとなったら小町から金を借りるか……
俺ってここまで情けない奴だったとはな…

再び全力疾走で雪ノ下の元へと戻る。
息が絶え絶えしてゼーゼーいってている。

「あなたって人は……」

雪ノ下は呆れたように声をかけるが、その表情は息切れも収まりそうになるくらい明るいもの
であった。

31 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 2013/08/21(水) 06:58:52.30 ID:DdghrasH0

「ところで、この辺に喫茶店はないか?」

「そんなことも知らないでお茶に誘ったわけ?」

雪ノ下は、フゥーとため息をついた。

「リア充じゃあるまいし、こんなところ一人で来るかよ。ぼっち舐めんなよ」

「……。それって、そんな胸を張って言うことかしら……」

こめかみの辺りに手をやり、まるで痛々しいものを見つめるような視線を送ってくる。

悲しくなってしまうから、そんな目で見るのはやめて…

「まぁいいわ……、それならここで飲んでいきましょ」

32 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 2013/08/21(水) 07:02:00.76 ID:DdghrasH0

この店には喫茶コーナーも併設されている。
俺と雪ノ下は適当に目についた席に着いた。

メニュー表を見ても俺には紅茶はさっぱりわからない。
ただひとつわかることは、ここにはMAXコーヒーは置いていないということだけだ。

「お前のおすすめは何だ?」

「そうね、シャンパーニュロゼ辺りは好きだわ。若い女性に人気があるのよ。あなたには全く無縁でしょうけど」

相変わらず俺に容赦のない言葉を浴びせる雪ノ下。
でも、的確過ぎて何も反論できねぇ。

「じゃあ、それにするわ。シャンパーニュロゼを2つ…」

いつも部室で飲む紅茶とは一味違った大人の上品さ。
若い女性に人気があるというだけあって、香りも味も心なしか心地が良い。
雪ノ下が煎れてくれる紅茶もなかなか良いが、これはこれで違う良さを感じる。

33 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 2013/08/21(水) 07:06:34.39 ID:DdghrasH0

紅茶で温まると再び京葉線に乗った。
行きとは違い、家路に向かうスーツ姿の男女で混み合っている。

隣り合った吊り革を並んでつかまっているが、もちろん俺たちの間に会話はない。
そう、これが俺と雪ノ下雪乃の距離感の取り方だ。
ぼっち同士互いに必要最低限以上にはかかわらない。
由比ヶ浜のように俺のパーソナルスペースを肉体的にも精神的にも侵してこない雪ノ下と
過ごすのは心地がいい。

そんなことを考えているうちに、雪ノ下が降りる駅に着いた。
普段は俺もここで降りるのだが、これから自転車を取りにもう2駅乗らなければならない。

34 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 2013/08/21(水) 07:10:20.25 ID:DdghrasH0

「じゃあ」
とだけ述べて雪ノ下は吊り革を離す。

「じゃあな」
と俺も一言返答する。

そんな感じでいつものように別れるのだ。
日々変わらぬ会話、変わらぬ関係―

しかし、雪ノ下雪乃は予想外にも振り返ると満面の笑みでこう語りかけるのであった。

「比企谷君、今日はとても楽しかったわ。ありがとう」

不意を突かれてしまった俺は、すっとんきょうな声で
「ああ…」
と返すのがやっとだった。

36 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 2013/08/21(水) 07:16:05.70 ID:DdghrasH0

それを見てくすっと笑う雪ノ下。
さらに何か話そうと口を開きかけようとする。

しかし、その瞬間ドアが開き、家路に急ぐ人波に押されてしまう。
雪ノ下はドアの外で背を向けて立ち尽くしている。
あまりにも突然のことで驚いてしまったのだろう…

こんなにも動揺する雪ノ下が珍しくて、思わず俺もくすっと笑ってしまう。

そんな雪ノ下の背中を見送るように電車は動き出す。
慌てて振り返った雪ノ下はの右手は胸の近くで中途半端に上げられている。
そして、これまた中途半端に開かれた掌をかすかに振りながら、なにやら口を動かしていた。

「また明日な」

雪ノ下には当然聞こえてはいないが、俺も声に出して応えた。

46 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 2013/08/21(水) 18:22:25.73 ID:DdghrasH0
「よう」

「こんにちは、比企谷君」

席に着くと、鞄から小さな包みを取り出し包装紙をはがす。
「あら、ちゃんと持ってきたのね。比企谷君にしては良い心がけじゃない」

俺だって一応学習能力はあるさ。
伊達に総武高に入学してないぞ。

「また紙コップがないからって、入れたての紅茶をすぐにポットに移し替えられてしまっては、
いくら俺でも心苦しいからな」

「そうね……、私もせっかく入れたお茶を捨てるような真似はしたくはないもの」

罵倒されるのかと思っていたら、雪ノ下はくすっと笑いながらそう応えた。

雪ノ下のティーカップの横に自分のカップを並べると、読書を始める。
夏に比べるとすっかりおとなしくなった陽光が心地よい。

47 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 2013/08/21(水) 18:26:01.34 ID:DdghrasH0

「やっはろー」

静寂を破るように部室に入ってきたのは、総武高という単語が最も似合わない由比ヶ浜結衣だ。

「こんにちは、由比ヶ浜さん」

「おう、由比ヶ浜」
「みんな揃ったことだしお茶にしましょう」

「やったあ、おやつの時間だぁ」

48 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 2013/08/21(水) 18:27:16.69 ID:DdghrasH0

いつものように、ガラス製のティーポットに湯を注ぎこむ音が聞こえてくる。
そして、いつものように3つのカップに注がれて、残りは陶製のポットの中へ注ぎ込む。
それから、いつものように保温カバーをかぶせて、紅茶が供される。

幾度となく繰り返されてきたいつもの奉仕部の日常だ。

しかし、今日はいつもと違うことがある。
由比ヶ浜のマグカップが置かれた後、俺の前に真新しいティーカップが置かれる。
「小町がせっかくお兄ちゃんのために温かい料理を用意して待っていたのに、黙って寄り道するんなんて。
今のって小町的に……、えっ……。……ところで、その紙袋の中に入っている包みって何……? もしかして
お兄ちゃんにプレゼント? えっ、結衣さん? もしかして、雪乃さん? ……」

昨晩帰宅した時、小町から厳しい尋問を受けて追及をかわすのにひと苦労した代物だ。

50 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 2013/08/21(水) 18:31:44.96 ID:DdghrasH0

「ヒッキーもやっとカップを持ってきたんだ…」

雪ノ下が煎れてくれた紅茶をすすろうと口元に運ぼうとすると…

「あー、そのカップ…」
途端に檻の中で落ち着かなくなった動物園の猛獣のようにキョロキョロ首を動かし始める。

そして、由比ヶ浜は雪ノ下のカップに目をやると突然静止してしまった。

51 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 2013/08/21(水) 18:33:44.39 ID:DdghrasH0

由比ヶ浜の視線を追った俺も一瞬目を疑った…
「なんで、ヒッキーとゆきのんがおそろいのカップを使ってるの!?」
由比ヶ浜はジト目で俺をにらむ。

「ねー、何でヒッキー!」

黙ってすすっていると、今度は雪ノ下へと体ごと向き直る。

「ねー、何でゆきのん!」

雪ノ下は、まるで他人事のようにまっすぐ前を見つめて紅茶をすする。
「ねー、なんで、なんで」

52 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 2013/08/21(水) 18:37:27.34 ID:DdghrasH0

いよいよ落ち着かなくなって、ますます左右に体を揺さぶり始めた由比ヶ浜。
俺をにらみつける由比ヶ浜のその先に視線を向ける。
それに気づいた雪ノ下がそっとこっちを向く。
そして、ゆっくりと片目をつむった雪ノ下雪乃は、これまで見せたことのない満面の笑みをたたえながら
小首を傾げてこっちを見つめてくる。

恥ずかしさのあまり、思わず目をそむけたくなるほどの眩い視線。

でも、もうここできょどる俺ではない。

胸に湧き上がる想いをすべて目に集めて俺も負けじと見つめ返す。
目をそらすんじゃねーぞ、雪ノ下さんよ…
53 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 2013/08/21(水) 18:42:29.03 ID:DdghrasH0
「ねーねー、ヒッキー聞いてんの!?」

かしましい由比ヶ浜の声は、耳から耳へと抜けていく。
そんなことには、構っていられない。

雪ノ下雪乃は一瞬困惑の表情を浮かべるが、すぐにありったけの笑みでウインクを送り返してきた。
何それ、反則的なまでに眩しすぎるその笑顔…
思わずきょどっちゃってしまいそう…
俺と雪ノ下の大切な確認作業を終えると、再び互いの視線は離れた。

「ねーヒッキー、ちゃんと答えてよ!」
「なんだ、由比ヶ浜。茶ぐらい静かに飲ませろよ…」

-こんな俺にだってラブコメの神様はちゃんといるんだな。

雪ノ下にこんなことを話したら、あいつなんて顔をするんだろうか……
―完―

56 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 2013/08/21(水) 18:47:08.96 ID:8q2g59/yo
おつ
面白かった!

62 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 2013/08/21(水) 19:52:22.69 ID:OafEYIa/0

後腐れなくて良いね

70 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 2013/08/22(木) 21:03:01.49 ID:9RUTlg+lo
エロいのはいらないそれが正解です
純愛続編が見たい
元スレ:雪ノ下「比企谷君、今からティーカップを買いに行かない?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1377016024/

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