273 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/09(水) 21:43:33.62
前スレ:
八幡「クリスマスイベントが中止?」1
八幡「寒い…………けど」
八幡(なんか心がむず痒いな、嫌じゃないが)
八幡(普通にクリスマスパーティーに誘われるなんて初めてだし…………イブではないがそこはあまり気にするものでもないか)
八幡「川崎、良い匂いがしたな…………」
八幡(誰かが聞いていたら通報物の言葉を口にする。いや、連絡先交換したときに身体近付けてきたから……あと帰りに一緒に歩いてるときにやたら近かったし)
八幡(まったく…………俺だからいいものの、他の男だったら何かされちまうぞ。パーティーに誘うのにもぼっちで慣れてないからって緊張して顔赤くしてたし)
八幡「…………」
八幡(…………いや、ないな。ないない。あの川崎が俺なんかを、なんて)
274 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/09(水) 21:44:43.11
八幡「たでーまー」
小町「おかえりなさーい、小町にする? 小町にする? それとも小町?」
八幡「小町しか選択肢がねえじゃねえか…………んじゃ小町で」
小町「はい、お兄ちゃん様ご案内ー」
八幡「うぜぇ……」
八幡(でも可愛いから許しちゃう。だって、千葉の兄妹だもん)
小町「ほら、こっちこっ…………」
八幡(小町が俺の手を引こうとして近付いてきたところで動きを止める。何だ?)
小町(朝にはなかった匂い…………シャンプー? 香水? ううん、大事なのは匂いがお兄ちゃんに移るほど接近した誰かがいたってこと!)
八幡「どうした小町?」
小町「あー、えっと、お兄ちゃん今日は満員電車乗ったり人混みの中を渡り歩いたりした?」
八幡「いや別に。何だ突然?」
小町(うわーうわー、微妙に疑ってたりしてたけどやっぱりいるんだ。いい人が…………うう、小町泣きそう)
小町「お兄ちゃん」
八幡「あん?」
八幡(小町はいきなり真面目な表情になって俺に顔を向ける。何だ?)
小町「小町は嬉しいよ、あのお兄ちゃんがこんなふうになるなんて…………もうゴミいちゃんなんて呼べないね。お兄ちゃんは小町の自慢のお兄ちゃんだよ」
275 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/09(水) 21:45:28.74
八幡「お、おう?」
八幡(だからなんでバイトするだけでそこまで持ち上げてくんの? 逆にプレッシャーでバイトの日に胃痛で倒れちゃうよ?)
小町「じゃ、もうすぐご飯出来るから座って待ってて」
八幡(小町はそう言って鼻歌を歌いながらキッチンに消えていった)
八幡「ていうか…………」
八幡(なーんかここ最近周囲のやつらの態度が変なんだよな…………)
八幡(俺がバイトすることにやたら感激する小町や両親)
八幡(俺がバイトをすることにやたら衝撃を受けていた雪ノ下や由比ヶ浜や一色)
八幡(俺がバイトをすることをやたら応援してくる葉山グループのやつら)
八幡(……………………)
八幡(うん、わからん)
小町「ご飯出来たよー」
八幡「おう」
八幡(考えるのが面倒くさくなった俺はさっさと思考を放棄する。小町の愛妹料理でも食べて気分直しといこう)
276 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/09(水) 21:47:13.74
八幡「ふう…………」
八幡(小町の料理に舌鼓を打ち、食後のお茶を小町と飲む。実に落ち着いたひとときだ)
小町(あ、そういえばお兄ちゃんに誰と会ってたのか聞かないと)
ピリリリリ
八幡「ん? メールか」
小町(あう、間の悪い…………)
八幡(お、川崎からか。どれどれ、初メールの内容は…………)
『今日はお疲れ様。あんたしっかりしてるように見えて結構隙だらけだからバイト中は気を付けなよ。ぼーっとしてあたしに隙を見せたら一撃入れちゃうからね(笑)。まだ早いけどイブの日はよろしく』
八幡(こいつメールだとよく喋るな。口下手な方なのに…………ていうか)
八幡「隙隙うるせえな、わかってんだよそんなもん」
小町(!! え? え? 好き好き? そんでお兄ちゃんはそれをわかってる!?)
八幡(交通事故経験者だしな俺は。対人関係には注意を払っていてもそういうのにそこまで気を回してねえのは認める。ま、川崎も心配して言ってくれてんだよな)ポチポチ
277 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/09(水) 21:50:02.35
小町「お、お兄ちゃん、何て返事してるの?」
八幡(え? おいおいメール覗き見したのか? お行儀悪いゾっ)
八幡「ああ。ありがとう、イブの日はよろしく。『隙』はあまり見せないようにするから、みたいなのを」
小町「何でよ!? イブだからこそ『好き』を見せないと!」
八幡「いやいや、危ないだろ。(車に)轢かれたりしたらどうすんだよ?」
小町「いいじゃない! (心が)惹かれるなんてイブにはよくあることでしょ!」
八幡「そりゃそうだけどよ…………」
八幡(普段と違って浮かれてるやつも多いし……だから俺らみたいな交通誘導の仕事が必要になってくるわけだが)
八幡「でもだからって俺がそうなる必要はないだろ。過去のアレ(入学式の日の事故)みたいなのはもう御免だからな」
小町「お兄ちゃん、まだアレ(中学の時のトラウマ)を引きずってたんだ…………」
八幡「引きずってるっつうか、そりゃ気にするだろ。もう二度とあんな思いはしたくない」
小町「……じゃあ何で今回はそんなことしてるの?」
小町(女の子とパレードに行くなんて…………)
八幡「え、何でって…………あんまり深い理由はないが」
八幡(バイトするのなんて、ただ誰もいない家にぼっちで過ごすのが嫌だったってだけだし)
278 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/09(水) 21:51:05.65
小町(え、なに!? お兄ちゃんは自分を好きって言ってくれる女子を何となくでパレードに誘って、なのにお兄ちゃんは相手をどうとも思ってないってこと!?)
八幡「小町?」
小町「ゴミいちゃんのお兄ちゃん! 最低! もう知らない!」ダッ
八幡「お、おい小町!? なんだ突然! …………行っちまった」
八幡(何なんだ? 車に轢かれろ、みたいなことを言われたかと思ったら罵倒されたぞ…………しかもゴミいちゃんのお兄ちゃんて、普通逆じゃね?)
小町(お兄ちゃんの馬鹿! こうなったら雪乃さんと結衣さんに情報をリークしてやる!)
341 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/12(土) 17:36:48.70
八幡(さて、期末テストの結果が発表されてやはり国語は三位に甘んじてしまったわけだが…………どうしても雪ノ下と葉山の壁を超えられない)
八幡(別に二人だって満点を取っているわけじゃないんだからチャンスはあるはずなんだが)チラ
雪乃「…………」
八幡(そういやなんか雪ノ下の元気がねえ気がするな。覇気がないっつーか意気消沈してるっつーか)
結衣「…………」
八幡(こっちはあからさまだ。ちょっと前のうるさいくらいのあれはどうした? 静かなのはいいけど暗いのは勘弁してほしい)
八幡(仕方ない、たまには俺から話題を振ってやるか)
八幡「そういえばお前らはイブはどうすんだ? パレード行くのか?」
雪乃「………………」
結衣「………………」
八幡(あ、あれ? 空気がより重くなったような)
結衣「うん……いろはちゃんも合わせて三人でパレード見て、そのあとはゆきのんの家でお泊まりパーティーするつもり…………」
八幡「いいじゃねえか楽しそうで。何でそんなに落ち込んでんだよ?」
雪乃「はあ…………もういいわ。由比ヶ浜さん、比企谷君なんかほっといて思いっきり楽しみましょう」
八幡(ほっといてって…………いつも放置気味にされてるんですがそれは)
342 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/12(土) 17:38:58.35
結衣「そうだね……もうヒッキーなんか気にしないで楽しんじゃうから!」
八幡「いつも空気みたいな扱いで気にされてないだろ俺は…………というか何で一色が一緒なんだ? あいつだって同級生の友達はいるだろうに」
八幡(わざわざ気を使う先輩二人となんて俺は御免だぞ)
結衣「あー…………それはちょっとヒッキーには言えないっていうか、慰め会みたいなとこもあるし……」
八幡「そ、そうか」
八幡(なるほど。きっと一色に何かツラいことがあったんだな。それで同年代には言いづらいから雪ノ下や由比ヶ浜を頼ったのか…………なら俺は深く関わらない方がいいだろう)
八幡(一瞬でそこまで察する俺マジ国語第三位。伊達に作者の気持ち力高くないな。第一位が目の前にいるんじゃ自慢にもならないけど)
八幡「ま、お前らはお前らで楽しんでこい。あとパレード中に俺を見かけても話し掛けたりするなよ。邪魔になるから」
結衣「…………うん」
八幡(俺の担当場所少し離れてるから平気だとは思うが一応な)
雪乃(邪魔、ってはっきり言われてしまったわね…………)
結衣(はあ……今更相手を知ったところでどうしようもないしなあ)
379 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/13(日) 20:30:11.37
八幡(さて、終業式も恙なく終わり、イブの日である)
八幡(ところで恙なく、の語源が恙虫という説があるのを知っていても恙虫そのものを知らない人って結構いるよね)
八幡(そんなどうでもいいことを寝起きで考えながら俺はベッドから降りた)
八幡「十二時前か…………飯食って準備して出掛けたらちょうどいいくらいかな」
八幡(リビングに入るが誰もいない。すでに全員出掛けているようだ)
八幡「あ、そういや明日川崎んち行くって伝えてなかったな…………ま、今日帰って小町に言えばいいか」
八幡(俺はトーストをかじり、朝飯兼昼飯を終えて家を出る)
380 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/13(日) 20:31:15.51
八幡(集合場所に向かう途中、見知った後ろ姿を見掛けた。最近何かと縁のある川崎だ)
八幡(普段の俺なら話し掛けたりはしないのだが、今日は一緒に仕事をするんだ。たまにはいいだろう)
八幡「よう、川崎。今日はよろしくな」
沙希「あ、比企谷。うん、よろしく」
八幡(…………やべ。女子に声を掛けて普通に応対してくれるのがやけに新鮮だ。まあ声を掛けること自体がほとんどないんだけど)
八幡「今日は晴れてるしそこそこ暖かいな。ホワイトクリスマスってわけにはいかないようだ」
沙希「でも夜は冷え込むって言ってたよ。あんた少し薄着じゃない?」
八幡「一応カイロくらいは用意してるけどな。ま、仕事終わったら帰るだけだし問題はねえよ」
沙希「そう?」
八幡(ちょっと大きめのカバンを持っていたのが気になったが、女子には色々あるのだろう。そこには言及せず、雑談をしながら川崎と並んで歩く)
381 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/13(日) 20:32:24.51
八幡「ふむ…………こんなもんか」
八幡(俺は更衣室で渡された服に着替え、用意されていた姿見でチェックする)
八幡「サイズも問題なし、と。しかし一応はクリスマス仕様なんだな」
八幡(交通誘導員としては目立つ方がいいため作業着は赤なのだが、それのついでかサンタクロースをイメージして作られているようだ)
八幡(更衣室を出たところで係員に必要な道具を渡される。無線機に腕章に交通誘導棒やホイッスル、あと帽子を渡された。もう完全にサンタ帽子だなこれ)
沙希「ごめん、待った?」
八幡「いや、俺も今来たとこだから」
八幡(入り口で川崎と合流する。川崎もサンタ衣装風作業着なのだが、分厚い生地にもかかわらずその母性の象徴が全然隠せてない。ホントスタイルいいなこいつ…………)
八幡「んじゃ行こうぜ。お前の分の道具も預かってるからあっち着いたら渡すよ」
沙希「うん、ありがと。行こ」
八幡(俺達は担当場所に向かって歩き出した)
382 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/13(日) 20:33:11.30
八幡(時間少し前に着くと、警備会社の人達が段取りをしていた。俺達を見付け、もう一度打ち合わせを行う)
八幡(無線機の使い方を改めて確認し、わからないことがあったら連絡するように言ってその場を離れていき、俺と川崎が残される)
八幡「んじゃもう看板立てとくか」
沙希「そうだね。まだ人が少ないうちにやっちゃお」
八幡(道路端に用意されていた看板を十字路の一角に立てる。ここは普段は一方通行なのだが、パレードが行われる道への近道になるので今日は車両通行止めになるのだ。歩行者は通していいが、自転車は降りるように促す役割もある)
八幡「そういや道案内も兼ねるとか言ってたな。パレード関係なら説明受けたからいいけど、店とか聞かれてもわからんぞ」
沙希「そういうのなら今どきは携帯やスマホで調べたりするから平気でしょ。いざとなったらあたし達が調べてもいいんだし」
八幡(『誘導員』と書かれた腕章を付けながらそんな会話をする。ま、ここは裏道だからあまりそういう心配はしなくてもいいか)
383 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/13(日) 20:34:12.11
「すいません、本日こちらの道は通行止めになってます。迂回お願いしまーす!」
「はい、こちら真っ直ぐ歩いていただければ大通りに出られます」
「あ、自転車のかた、こちらの道は降りてのご通行お願いします」
「駐車場? この辺りは少ないですよ。駅の反対側に行かれることをお薦めします」
八幡「なんか意外と人多いな…………もう疲れてきたわ」
沙希「だね。看板だけで対処できるかと思ったけどそうでもないし…………でもここは楽な方なんだよね確か」
八幡「バイトに任せるくらいだからそうなんだろうな…………二人組でなきゃツラいし……本当に相方がお前で良かったわ」
沙希「まったく知らない人とだったら軽口も言えないしね。あたしもあんたとで良かったよ」
八幡「ま、パレードが始まったらむしろここは楽になるだろ。辛抱しようぜ」
沙希「ん。そうだね」
八幡(俺達は時折交代で休憩を挟みながら仕事をこなしていく。そろそろ暗くなってきたな。五時前くらいといったところか…………)
389 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/13(日) 21:21:55.88
>沙希「ごめん、待った?」
>八幡「いや、俺も今来たとこだから」
どう見ても恋人じゃないか!
403 : ◆zO7AQfurSQ :2015/12/14(月) 20:59:38.83
沙希「ふう、もう一踏ん張りってとこかな」
八幡「そうだな。今は楽だけど、もうすぐパレード終わるからまた大変になるが」
沙希「本場みたいに深夜までやらないんだね」
八幡「地域全体で盛り上げててもやっぱり公道を使ってるわけだからな、兼ね合いがあるんだろ」
沙希「そういえばあんたはパレード見に行こうとかは思わなかったの?」
八幡「あんま興味ないしな。混んでるとこも好きじゃねえし」
沙希「誰かに誘われたりしたら行った?」
八幡「相手に寄るかな…………俺を誘うやつなんか小町くらいしかいないけど」
沙希「…………じゃあ、あたしが誘ったら一緒に来てくれた?」
八幡「え…………」
沙希「…………」
八幡「…………」
八幡(な、なんだこれ。この空気、まるで…………)
ピーッピーッ
八幡「! は、はい、もしもし」
『パレードが終了した。そちらにも人が流れていくと思うから注意しておいてくれ』
八幡「了解しました」
八幡(無線機からの連絡に応対し、通信を切る)
沙希「来たよ」
八幡(川崎の目線を追うと看板の向こう側から何人かのグループがいくつか歩いてくるのが見える。んじゃ頑張りますかね)
404 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/14(月) 21:01:52.84
受付「お疲れ様でした。金額に間違いがなければこちらの受領書にサインをお願いします」
八幡(仕事を終えて再び更衣室で着替えた俺は給料を受け取り、確認してサインをする)
受付「はい、ありがとうございます。あとこちらをどうぞ。お友達などにプレゼントしてあげてください」
八幡(いや、俺友達いないんで。なんて言葉を飲み込みつつ差し出されたものを受け取る。小さなビニール袋が五つ、ストラップだ)
八幡「どうもありがとうございます。お世話になりました」
受付「はい。また何かありましたらよろしくお願いします」
八幡(軽く頭を下げて俺はその場を離れる。入り口で待っていると川崎がやってきた)
沙希「あれ、どうしたの? こんなとこで」
八幡「ああ。その、迷惑じゃなければ、送って行こうかと」
沙希「え、あ、あたしを?」
八幡「もう、夜も遅いし、俺みたいなのでも女一人よりは安全かなって…………いや、迷惑だったり余計なお世話だったりしたら全然断ってくれて構わないから」
沙希「ううん、迷惑なんかじゃないよ。お願いしてもいい?」
八幡「おう。行こうぜ」
406 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/14(月) 21:04:01.83
八幡(さっきまで着ていた作業着は防寒もしっかりしていたようで、私服で外に出ると思わず寒さで身をすくめてしまう)
沙希「ほらもう、やっぱり寒いんじゃない」
八幡「いいんだよ、懐は暖かいから」
沙希「何それ? そりゃバイト代入った直後だけどさ…………ちょっといい?」
八幡(川崎は通行人の邪魔にならないよう道の端に寄り、俺もあとに続く)
八幡(しばらくカバンを漁っていたかと思うと、何かを取り出して俺に差し出してきた)
沙希「はいこれ。クリスマスプレゼント」
八幡「…………え?」
沙希「巻いてあげるよ。動かないでね」
八幡「え? え?」
八幡(川崎は混乱している俺に近寄り、取り出したマフラーを俺の首に巻いていく。あ、また良い匂いが…………じゃなくて!)
八幡「か、川崎……」
沙希「ほら動かないで。終わるまで待ちなって」
八幡「あ、ああ」
八幡(な、なんだこれ? どうなってんの?)
沙希「ん、よし。うん、似合ってる。我ながら良い出来かな?」
八幡「えっ? これ川崎が編んだのか?」
沙希「うん。あんたのために編んだよ。渡すのは明日でもいいかなと思ってたけど…………貰ってくれると嬉しいな」
407 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/14(月) 21:05:15.07
八幡「…………マ、マジで俺にくれるの?」
沙希「そうだってば」
八幡「えっと、その、今日のバイト代を渡せばいいのか?」
沙希「あたしを何だと思ってんのさ…………見返りなんか求めてないって」
八幡「………………」
八幡(ようやく実感が湧いてきて、首元と一緒に胸の内がじんわりと暖かくなってきた。俺はそっと慈しむようにマフラーに触れる)
八幡「川崎」
沙希「……何?」
八幡「ありがとな。すっげえ嬉しい」ニコッ
沙希「う、うん。そこまでストレートに喜んでくれるならあたしも嬉しいかな」
沙希(な、何今の? いつもの自虐的なのや苦笑いじゃなくて、本当に嬉しそうな笑顔…………一瞬だけど、目元がキリッとして、唇の端がふわっと柔らかく上がって…………)ドキドキ
八幡「あー、でもやっぱり貰いっぱなしってのもな…………えっと、何か欲しいものとかしてほしいこととかないか? 本当は本人に聞くことじゃないんだろうけど、俺こういう経験ないからさ」
沙希「………………じゃあ、変なお願いしてもいい?」
八幡「おう、遠慮すんな。俺に出来ることなら何でもするぜ」
408 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/14(月) 21:06:00.16
沙希「実はあたし、少し寒がりでさ」
八幡「? おう」
沙希「と、特に、手、寒いから…………」スッ
八幡「!!」
八幡(か、片手差し出してきた。これって、そういうことで、いいのか?)
八幡(俺は恐る恐るといった感じでその手を握る)
沙希「ん…………」
八幡(そんな色っぽい声出さないでください川崎さん! そして手が柔らけえぇ!)
八幡「い、行くか」
沙希「うん……」
八幡(俺達は手を繋いだまま歩き出す。とても雑談とかするような気にはなれない。だけど…………)
八幡「…………」
沙希「…………」
八幡(気まずい雰囲気はなく、ちょっとくすぐったいような空気だ。そしてそれがちっとも不快ではない)
八幡(川崎の家に着くまで俺達はずっとそんな状態だった)
409 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/14(月) 21:06:58.45
八幡「えっと、じゃあ、また明日な」
沙希「うん。さっきも言ったけど夕方五時くらいに来てくれればいいから」
八幡「それなんだけどさ、せっかく招待してくれるんだったら俺も弟達に何かプレゼントしたいんだが…………何が良い?」
沙希「え、いいってそんなの。そういうつもりで招待したわけじゃないんだから」
八幡「俺がそうしたいんだよ。頼むからそうさせてくれ」
沙希「あ、頭下げないでよ……わかったからさ」
八幡(しばらく川崎と相談し、みんなにプレゼントするものを決める)
八幡「じゃ、今度こそまた明日。マフラー、ありがとな」
沙希「うん。あたしも送ってくれてありがとね。また明日」
八幡(少し名残惜しくなりながら繋いでいた手を離し、手を振って川崎と別れる)
410 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/14(月) 21:07:41.27
八幡「うう、寒…………」
八幡(途端に寒さを感じ始め、俺はポケットに手を突っ込んだ)
八幡「あ……」
八幡(そこにカサリとした感触。さっき貰ったストラップだ)
八幡「…………らしくないけど、幸せのお裾分けでもしてみるか」
八幡(俺はスマホを取り出して由比ヶ浜にメールをする)
『今三人か? どこにいる?』
『うん、三人。パレードも見終わってごはん食べて、今ゆきのんの家に向かってる途中だよ。どしたの?(?_?)』
八幡(返信早いな…………ま、好都合か)
『今からちょっとだけ会えないか? お前らに渡したいものがあるんだが』
八幡(そう送ると雪ノ下のマンションの入口で待ってると返事が来た。ここからそう遠くないし十分もかからんだろ)
411 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/14(月) 21:08:45.09
いろは「あ、先輩! こっちですこっち!」
八幡(俺を見つけた一色がぶんぶんと手を振る。わかってるからやめてくれませんかね。通行人に見られてます)
八幡「よう、待たせて悪かったな」
結衣「ううん平気!」
雪乃「それで、突然どうしたのかしら? 渡したいものがあるとか聞いたのだけれど」
八幡「ああ。つまんねえもんだけどさ、一応普段のお礼も兼ねてってことで。メリークリスマスだ」
八幡(俺はそう言って三人にストラップを差し出す)
雪乃・結衣・いろは「「「え…………?」」」
八幡(三人は絶句して動かない。えーっと…………)
八幡「その、いらなきゃいらないでいいけどさ、せっかくだから受け取る素振りだけでもしてくれると嬉しいんだが」
いろは「ど、どうしたんですか突然!?」
結衣「な、なんでなんで!?」
雪乃「雪でも降るのかしら…………」
八幡(ひどい言われようである。と思ったが普段の俺を知ってるならさもありなんといったところだな)
八幡「あー……すまんな変なことして。悪かったよ」
八幡(俺はストラップを引っ込め、ポケットに戻そうとする。が、その前に一色に腕を掴まれた)
412 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/14(月) 21:09:53.12
いろは「待った待った! いらないなんて言ってないじゃないですか!」
八幡「だったら早く受け取れよ。腕上げさせたまんまにすんな」
八幡(三人はそっと俺の手からストラップを取った。別に変なイタズラとか仕掛けてないから!)
雪乃「! こ、これは!」
八幡(雪ノ下の顔が驚愕の表情になる。あ、そういや雪ノ下はパンさんが好きだったな)
雪乃「きょ、去年のクリスマスにディスティニィーランドで限定販売された超レア物のパンさんサンタ衣装ストラップ! どうして比企谷君がこれを!?」
八幡「あ、そんな珍しいもんなのそれ?」
雪乃「ファンにとっても垂涎の代物よ。ネットオークションでも最低十倍以上の値段がつくほどで、それすら安いと言われているわ」
八幡「詳しいなお前…………あ、もしかしてもう持ってる?」
雪乃「い、いえ、出回ることすらほとんどなくて…………」
八幡「んじゃちょうど良かったか。俺からってのは気に入らないかもしれねえけど物はおんなじだし構わねえだろ?」
いろは「ま、待ってください! そんな凄いものポンと受け取れませんよ!」
結衣「そうだよ! だいたい何であたし達に……」
413 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/14(月) 21:12:16.07
八幡「何でって…………クリスマスプレゼントって言ったろ。俺からってのが嫌ならサンタさんからの贈り物ってことにしとけ。それにこう言っちゃなんだけど、それ貰い物だからよ」
雪乃「貰い物? こんなのをあっさりくれる人がいるの?」
八幡「個人じゃねえよ。バイト先な。バイト代のついでにくれたんだ」
雪乃・結衣・いろは「「「…………………バイト?」」」
八幡「だから今日のバイトだよ。小町に聞いたんだろ?」
雪乃・結衣・いろは「「「……………………」」」
八幡「?」
雪乃「ちょっとごめんなさい比企谷君、少し三人で話し合うから待っててくれないかしら?」
八幡「何をだよ。俺の用事は済んだから帰りたいんだが」
結衣「あ、あれ? えっと…………」
いろは「せ、先輩、確認しますね。先輩は今日パレードに行ったんですよね?」
八幡「正確にはパレードの交通誘導のバイトな」
雪乃・結衣・いろは「「「…………………………」」」
八幡「だから何なんだよその沈黙は」
雪乃「いえ、何かとんでもないすれ違いがあったみたいで…………」
八幡「?」
雪乃「その、今私達も混乱しているわ…………後日比企谷君と話し合いをしたいのだけれど」
八幡「何だかよくわからんが…………まあ暇な時なら構わねえぞ」
雪乃「え、ええ、それとストラップありがとう。すごく嬉しいわ」
結衣「あ、そうだ。ありがとうヒッキー!」
いろは「ありがとうございます先輩!」
八幡「おう。んじゃまたな」
八幡(俺はまだ動揺、というか混乱している三人に手を振り、帰路についた)
420 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/14(月) 21:48:00.09
川崎乙
川崎が可愛すぎてつらい
424 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/14(月) 22:02:26.04
乙!
安心安定のサキサキ!
427 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/14(月) 22:50:44.59
乙
後日話し合ってる間に八幡はもうサキサキのものに…
444 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/15(火) 22:14:46.72
八幡「ただいま、っと」
小町「あ…………お帰りお兄ちゃん」
八幡(帰宅してリビングに入ると何やら小町がそわそわしていた。何だ?)
小町「ちょ、ちょっと聞きたいんだけど、お兄ちゃん、アルバイトに行ってた、んだよね?」
八幡「何でそんな恐る恐る聞くんだよ…………そうだぞ、パレード時の交通誘導のバイトな。知ってるんだろ?」
小町「え、えっと、あはは…………」
八幡(小町は何かをごまかすように笑う。何なんだよいったい)
小町(はあ…………さっき雪乃さんからかかってきた電話で聞いた通りか…………どこでどう勘違いしちゃってたんだろ?)
八幡「ああ、小町、これやるよ。バイト先でもらったんだ。雪ノ下曰く、レア物らしいぞ」
小町「わ、可愛いパンさん! って、それなら雪乃さんにあげた方がいいんじゃない?」
八幡「あいつにはもうやったよ。全部で五個貰ったしな。いらなかったら売っ払っちまえばちょっとした小遣いになるぞ」
小町「売らないよ! その、ありがとうお兄ちゃん」
八幡「ま、貰い物で悪いけどな」
小町「ううん、大事にするから」
445 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/15(火) 22:15:44.84
小町(でも、うーん。余計なことしなければもっと早くなんとかなったのかなあ? 上手く行けばお兄ちゃんと雪乃さん達でパーティーさせて急接近とか…………あれ?)
小町「お兄ちゃん、そんなマフラー持ってたっけ? いつ買ったの?」
八幡「あー…………」
小町「ん? んんー……? よく見たらそれ、市販のじゃないよね、手編みって感じがする」
八幡「何でわかるんだよ…………」
小町「え、ほ、本当に? 誰に貰ったの? 雪乃さん? 結衣さん?」
八幡「…………川崎」
小町「えっ?」
八幡「川崎だよ。大志の姉の川崎沙希だ」
小町「…………」
八幡(小町がしばらく沈黙する。と思ったらいきなり俺の腕を掴んで椅子に座らされた)
小町「さあ、容疑者お兄ちゃんさん。洗いざらい吐くのです」
八幡「何をだよ、悪いことはしてないぞ。そりゃワンダの朝専用コーヒーを午後に飲むくらいはしてるが」
小町「そんなの小町だって午後の紅茶を午前中に飲んでるよ! そうじゃなくて沙希さんのこと!」
八幡「川崎がどうかしたのか?」
小町「どうしてお兄ちゃんにマフラーを渡すのに至ったのかってことだよ!」
446 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/15(火) 22:16:20.73
八幡「どうしてって…………プレゼントって言って渡されたんだが」
小町「ああもう! そうじゃなくて! どうして今日沙希さんと会ってたの!?」
八幡「ああ、そっからか。いや、あいつも同じバイトを申し込んでてさ、説明会の時にたまたま会ってな。んで俺達が二人組にされて仕事してたんだ」
小町「あ、それは偶然なんだ」
八幡「そんで仕事のあとに川崎を送っていこうと思ったんだけど」
小町「え、お兄ちゃんが? 珍しい! でもポイント高い!」
八幡「茶々入れるなよ……少し俺が寒そうにしてたらちょうど良かったって言って渡してくれたんだ」
小町「へえー…………」
小町(これは意外な伏兵だね。まさか沙希さんとは。このままお兄ちゃん争奪戦に絡んでくるかな?)
八幡「あ、そうそう。明日の夜なんだが、俺川崎んちにクリスマスパーティーで呼ばれてるからそっち行ってくる。親父達の相手は小町に任せるわ。毎年のことだけど」
小町「えっ!? 沙希さんとこ行くの?」
八幡「ああ。ついでに川崎の弟達にもプレゼント買っていくから昼過ぎには出掛けるわ」
小町「義弟達にもかぁ……」
八幡「今なんかニュアンスおかしくなかったか?」
447 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/15(火) 22:17:00.41
小町(というかもう争奪戦に参加するどころか雪乃さん達をごぼう抜きしてるような…………でも、うん、邪魔はしないでおこう)
小町「うん、わかった。お父さん達は夕方に帰ってくるらしいけど、小町から言っとく。お兄ちゃんはお兄ちゃんで楽しんできなよ」
八幡「人様の家にパーティーで呼ばれるなんて緊張するけどな…………んじゃ風呂入ってさっさと寝るか」
小町「うん。もう沸いてるよ…………あれ、お仕事してたならごはんは?」
八幡「ああ、休憩中に食ったから平気だ」
小町「りょーかい」
八幡(その後、俺は風呂に入り、歯を磨いてベッドに潜り込む)
八幡(ちら、と向けた視線の先にはハンガーにかけた川崎から貰ったマフラーがある)
八幡(今日一日にあった川崎との色んな会話。それらを頭の中で反芻しながら俺は眠りについた)
478 : ◆zO7AQfurSQ :2015/12/16(水) 20:39:29.43
~二十五日・昼過ぎ~
八幡「んじゃそろそろ出掛けるかな」
小町「あれ、早くない? ってそっか。プレゼント買っていくんだっけ」
八幡「ああ。このシーズンだったら最初の店で買えるとは限らないからな。いくつか店を廻るつもりだ」
小町「そういう気配りはできるのにどうしてお兄ちゃんはぼっちなんだろ……?」
八幡「自分で言うのもなんだが、普段はそんな気配りしてないからだろ」
小町「じゃあ何で今回は……あ、もしかして沙希さんに惚れちゃったとか? それでポイント稼ごうとか。なーんて…………」
八幡「………………」
小町「…………え、お兄ちゃん? まさか」
八幡「いや、そんなんじゃねえよ。行ってくるわ」
小町「あ、うん。行ってらっしゃい」
小町(お兄ちゃんのあの表情、何でだろって感じだった。たぶん自分でもよくわかってないってことなんだろうな…………)
小町(でもさっきの昨日沙希さんから貰ったマフラーを捲いたときの顔、答えは出てるようなもんだよね)
小町(最終的に決めるのはお兄ちゃん自身だけど、できれば後悔しない道を選択してほしいな…………)
479 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/16(水) 20:40:26.09
~二十五日・午後九時・川崎家~
大志「二人ともぐっすり寝てるよ」
八幡(小さい二人の様子を見てきた大志が戻ってきた。ちょうど洗い物を終えた川崎も居間にやってくる)
沙希「ん、ありがと。今お茶淹れるから」
八幡(川崎はポットから急須にお湯を注ぎ、湯呑みにお茶を入れて俺達の前に差し出す)
八幡「サンキュー」
大志「ありがと姉ちゃん…………でもあいつら二人ともお兄さんにべったりだったっすね」
沙希「最初はちょっと怖がってたけどね」
八幡「そりゃこんなツラしてりゃな。まあお前らが普通に接してきたから危険はないと判断したんだろ」
沙希「プレゼントも効いたんじゃない? すごく喜んでたし」
大志「二人とも枕元に置いて寝てたっす。よっぽど嬉しかったんすね」
八幡(弟には流行りのヒーローものの変身セット。妹にはぬいぐるみをプレゼントしてやったのだ。おかげでメシ時も引っ付かれてしまった…………まあ子供に懐かれるのは悪い気しなかったけど)
大志「お兄さんが来てくれたのはびっくりしましたけど、おかげで楽しいパーティーになったっすね。ありがとうございます」ペコ
480 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/16(水) 20:41:21.61
八幡「そんなことで頭下げるなって。俺だって楽しんだんだからおあいこだ」
大志「いや、それでもっすよ。わざわざ来てもらったんすから」
八幡「そんなことされたら今からのがやりにくくなるだろうが…………」
大志「え?」
八幡(大志が怪訝な表情をする。俺は鞄から包装されたものを取り出した)
八幡「ほら、クリスマスプレゼントだ。メリークリスマス」
大志「…………え?」
八幡(大志に差し出すと、大志はポカンとした顔になった。川崎も少し驚いている)
大志「お、俺にっすか!?」
八幡「そうだ。早く受け取れよ」
大志「あ、ありがとうございます! 開けていいっすか?」
八幡「好きにしろ。大したものでもないが」
大志「…………あ、財布。ちょっと大人っぽくてかっこいい」
八幡「お前も来年は高校生だしそのくらいのは持ってていいだろ」
大志「ありがとうございます! 大事に使わせてもらうっす!」
沙希「よかったね大志。ありがとう比企谷」
八幡「そんな高いものでもないしな。下の子達にあげて上にはやらないってのも変な話だし…………で、これが川崎の分な」
沙希「えっ!?」
481 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/16(水) 20:42:00.17
八幡(俺が包みを差し出すと川崎が驚愕の表情になる)
沙希「な、何で!? 何で!?」
八幡「何でって、別におかしくないだろ。今言ったように他のやつらにはやってるんだからお前にもだよ。そもそも最初にくれたのは川崎の方からじゃないか」
沙希「あ、えっと…………ありがとう。開けていい?」
八幡「ああ、気に入らなきゃ捨てたっていいから」
沙希「しないよそんなこと……あ、エプロン」
沙希(しかもこれ安物なんかじゃない。生地もしっかりしてるしかなり良いものだ…………)
八幡「お前が家事してるんならエプロンは消耗品に近くなるだろ? よかったら使ってくれ」
沙希「うん。ありがとう…………」
大志「良かったね姉ちゃん。お兄さん、これはあれすか? 将来は自分の身の回りもこれ着けて世話してほしいとかそういう…………」
八幡「なっ!?」
沙希「た、大志っ!!」
大志「うおっと。怒られる前に退散するっすよ」タタッ
沙希「あ、こら…………もう」
八幡(川崎は浮かした腰を下ろして溜め息をつく。顔が真っ赤なのは気のせいということにしたい)
490 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/16(水) 21:19:06.51
あれ?
川崎家ってサキサキ、大志、けーちゃんの三人姉弟じゃなかったの?
491 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/16(水) 21:34:17.80
>>490
もう一人弟がいる
499 : ◆zO7AQfurSQ :2015/12/17(木) 23:41:20.79
沙希「ごめん、大志が変なこと言っちゃって…………」
八幡「あ、いや、別に…………」
沙希「…………」
八幡「…………」
沙希「…………ねえ」
八幡「お、おう。何だ?」
沙希「その、下の子達もあんたのこと気に入ってるみたいだしさ、よかったらまた遊びにきてやってくれないかな?」
八幡「あ、ああ、俺なんかでよければ…………」
沙希「うん」
八幡「………………下の子達『も』?」
沙希「え…………あっ」
八幡「!」
八幡(自意識過剰かと思ったけどどうして何も言わず俯くんですか川崎さん!)
八幡「…………」
沙希「…………」チラ、サッ
八幡(チラ見して目があったら咄嗟にそむけるとか少女漫画かよ!?)
沙希「…………////」
八幡「そ、そろそろ帰るわ。もう夜も遅いし」
沙希「え、あ、うん。わかった」
500 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/17(木) 23:42:27.25
八幡(玄関で靴を履いていると声を掛けられる)
沙希「今日は本当にありがとうね。来てくれたことも、プレゼントも」
八幡「いや、こっちこそ誘ってくれてサンキューな。たぶん今までで一番楽しいクリスマスだったわ」
沙希「そんな大袈裟な…………でも、うん。そう言ってくれるなら誘った甲斐があったかな」
八幡「あとこれも」
八幡(俺は立ち上がって振り向き、首のマフラーに触れる)
沙希「あ…………」
八幡「どんなブランドものとかよりも嬉しい。大事に使わせてもらうぜ」
沙希「うん…………その、それが古くなったり解れたりしたら言って。また編んであげるから」
八幡「マジで? じゃあそん時はよろしく頼むわ。もう寒いときはお前のマフラー無しじゃ外に出れそうにねえから」
沙希「ふふ、何それ…………あ、比企谷、頭にクラッカーの紙屑ついてる」
八幡「え、どこだ?」パッパッ
沙希「取ってあげるよ、動かないで」
八幡(川崎が寄ってきて俺の頭から紙屑をひょいとつまみ上げる…………って、近い近い! 川崎の顔が目の前に!)
沙希「…………」
八幡(もう紙屑は取れたんだろ。何で離れないの!? いや、俺もだけど!?)
501 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/17(木) 23:43:11.98
八幡(目を逸らすことも離れることも出来ず、川崎と見つめ合う)
八幡(川崎って睫毛長いな。なぜか少し潤んでる瞳も綺麗で…………ヤ、ヤバい、吸い込まれそう…………)
??「ただいまー、ごめんね遅くなっちゃって」ガチャ
八幡・沙希「!!?」バッ
八幡(突然ドアが開き、俺達は弾かれたように身体を離す)
??「って、あら?」
八幡(俺を見て訝しげな表情をする壮年の女性。おそらく川崎の母親だろう)
沙希「お、お帰り母さん。こっちはクラスメイトの比企谷」
八幡「ど、どうも、比企谷です。いつも川崎…………沙希さんにはお世話になってます」
川崎母「まあ、ご丁寧にどうも。沙希の母です」
八幡(お互いに頭を下げあったあと、川崎の母親は俺をじろじろと眺める)
川崎母「ふむ…………」
八幡「あ、あの、何か?」
川崎母「ごめんなさい沙希、あと三十分くらい出掛けてくるわ。いいところを邪魔しちゃって悪かったわね」
八幡「なっ!」
沙希「ち、違う、そんなんじゃないから!」
八幡(その騒ぎを聞きつけたのか大志がやってきた)
大志「あ、母ちゃんお帰り。あれ、お兄さん帰るんすか? 泊まってってもいいのに」
502 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/17(木) 23:44:06.36
八幡「な、何言ってんだ!?」
沙希「からかうんじゃないよ大志!」
大志「別に冗談のつもりはないんすけどね…………あれ、お兄さんのそのマフラー、姉ちゃんが編んでたやつじゃないっすか。姉ちゃん、ちゃんと受け取ってもらえてよかったじゃん」
川崎母「あらあらまあまあ」
沙希「ああう…………ひ、比企谷! もう帰るんでしょ! ほら!」
八幡「お、おう。えっと、お邪魔しました」
八幡(この状況に耐えきれなくなったか、川崎は俺の背中をぐいぐいと押して追いやる。俺は慌てて川崎の母親に挨拶をした)
沙希「はあ…………ごめんね、母さんと大志が」
八幡「いや、別に…………それよりお前まで出て来なくてよかったのに。寒いだろ、早く家の中に入れよ」
沙希「うん。でも、その…………」
八幡「…………川崎、先に言っておくことがある」
沙希「え、な、何?」
八幡「玄関のドア、少し開いてる。誰か様子窺ってんぞ」
八幡(川崎がバッと振り向くと同時にそのドアが閉まる。その向こうでドタバタと音がした。逃げていったようだ)
沙希「まったく…………」
八幡「はは、いい家族じゃねえか…………じゃ、川崎、また明日な。確か予備校の講義一緒だったろ?」
沙希「あ、そうだったね。午後一からのやつか…………うん、また明日」
八幡「おう。んじゃな」
沙希「またね」
八幡(俺達は手を振り合ってその場を別れた。うん…………いいクリスマスだったな)
503 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/17(木) 23:45:31.67
クリスマス終了
あとは後日談をやって終わり
ついでに酔った勢いで叩かれ覚悟でおまけ投下
八幡(川崎沙希、か…………何かした覚えはあんまりないんだけど、それなりの好意を持ってくれてるっぽいよな)
八幡(あと一回くらい、黒歴史を増やす覚悟を決めてみようかな…………)
八幡「しかし寒いな。あの公園にマッ缶売ってる自販機あったし寄っていくか」
八幡(そう呟いて公園に入ると、ベンチにぐてーっとのびている一人の女性が目に入った)
平塚「………………」
八幡(いや、何でだよ!?)
平塚「あー……結婚したい…………カップル死ね……リア充滅びろ……」
八幡(何物騒なこと呟いてんの!? てか明らかに酔ってるよなあれ…………こんなところで寝始めたりしたら下手すりゃ凍死するぞ)
八幡(見つけた以上無視するわけにもいかず、声を掛けようとした時、別の男性が平塚先生に近付いていった)
1「おい静、妙な呪詛撒き散らしてんじゃねえよ。ほら、ペットボトルの水買ってきたから飲め」
平塚「あーうー、それより酒持って来い1、飲み足りない」
1「さっき吐いたくせに何言ってやがる。せめて口ゆすぐくらいしろ、ほら」
504 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/17(木) 23:48:42.30
発想が斬新杉内
でも嫌いじゃない
505 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/17(木) 23:48:56.65
平塚「ガラガラ、ペッ。だいたいせっかくのクリスマスなのに何で隣にいるのがお前なんだ」
1「ひでえ。いきなり呼び出して飲みに付き合わせてる相手に言う言葉じゃないぞ」
平塚「…………なあ1よ、どうして私は結婚できないんだろうな? 外見は悪くないと思うし、公務員という安定した職持ちだぞ?」
1「今のお前を見てりゃ誰だって逃げるわ。あと重いんだよ、すぐ結婚の話持ち出すから。それと酒と煙草もアウトな」
平塚「教師ってのはなー、ストレス溜まるんだよー。飲まなきゃやってられんこともある」
1「お前中学の頃から親の酒をくすねてチビチビ飲んでたじゃねえか。ただのアル中一歩手前なだけだ」
平塚「うー、ああ言えばこう言う…………もう1でいいや、結婚しよ」
1「はいはい、お互い三十三になってもいい相手がいなかったら俺がもらってやるから」
平塚「何だその上から目線は。ムカつくムカつく! 絶対1より良い男見つけて結婚してやるんだからな! あう……頭痛い…………」
1「突然大声出すからだ。ほら、早く帰らないと風邪引くぞ」
平塚「だるいー、おんぶー」
1「やだよお前んちここから遠いし」
平塚「1の家でいいー」
1「ったく。ほら、背中乗れ」
平塚「わーい」ガバッ、ギュッ
1「おっと……はしゃぐな、歳考えろ」
平塚「zzzz」
1「もう寝たのか!? …………やれやれ、こいつとの腐れ縁もいつまで続くのやら」
507 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/17(木) 23:49:46.05
八幡「………………」
八幡(と、とんでもないもん見ちまった…………平塚先生、あのまま背負われて行ってしまったけど…………)
八幡(てか平塚先生、いい人いるじゃん! あの男性でいいじゃん! あんな醜態晒しても世話してくれるってもう夫婦レベルじゃん! 何が不満なの!?)
八幡(名前呼び合ってるし、家に泊まるのも初めてじゃないみたいだし、昔からの知り合いっぽいし)
八幡(えーと、1さんだっけ。今度先生に何か言われたらからかってやろう)
さあ、好きなだけ1こと俺を叩けや!
サムいでもキモいでもバッチコイ!
今日はここまで
またノシ
509 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/18(金) 00:01:48.63
乙
むしろ最近は1が出てくるほうが少ないから
いいとおもった(小並感)
510 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/18(金) 00:02:55.27
ゴミイッちゃん、ポイント高いよ
514 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/18(金) 00:10:39.03
お願い>>1! 正気に戻って!!
522 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/18(金) 01:40:04.31
ワロタww
でも嫌いじゃ無いわwwww
537 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/18(金) 21:19:11.25
正直これはないわ…と思ってるんだけど言っちゃったらなにかが壊れちゃう気がして必死にフォローしまくるスレのみんなが大好き
545 : ◆zO7AQfurSQ :2015/12/19(土) 22:56:05.62
~二十六日・午後一時~
八幡(予備校にやってきて教室に入ると、先に来ていた川崎がこっちに気付き、手を振ってくる)
八幡「おっす。隣、座っていいか?」
沙希「ん、いいよ」
八幡「サンキュ。よっと」
八幡(川崎の許可を貰い、俺は隣の席に座る。そこで俺はふと気付く)
八幡(俺が、率先して誰かの隣に座ろうとするなんて。それもごく自然に)
沙希「? どしたの?」
八幡「あ、いや、何でもない。えっと、まずは英語からだったな」
八幡(少し呆けてしまったようで、川崎が訝しげに聞いてくる。それを誤魔化すように俺は講義の教材を準備し始めた)
546 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/19(土) 22:57:03.10
八幡「ほら、午後ティーな」
沙希「うん。ありがと」
八幡(俺は川崎の前に自販機で購入した飲み物を置き、対面の椅子に座る)
八幡(講義が1コマ分空いたこの時間はいつもなら自習室で勉強するのだが、時期的に埋まっていたのだ。一人だったら暇つぶしに外に出るのだが、川崎に誘われて俺達は休憩スペースにいる)
沙希「そういえばさ、昨日も言ったけどまたうちにあんたを招待したいんだよね」
八幡「ああ、また下の子達と遊んで欲しいってやつか。そこまで懐いてくれてんなら光栄だぜ」
沙希「うん、それもあるんだけど…………ウチの親がね」
八幡「何かあったのか?」
沙希「なんていうか、プレゼント買ってくれたのをすごく申し訳なさそうにしててさ、ちゃんとお礼とおもてなしをしたいって聞かなくて」
八幡「えー……いや、いいよそういうのは。俺苦手だし」
沙希「うん。あんたならそう言うと思ってた。でもほら、多少なりともお金が絡んじゃってるからさ…………」
547 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/19(土) 22:57:48.08
八幡「面倒だな…………俺から貰ったとか言わないでよかったのに」
沙希「うん。だけど朝起きたら下の子達が騒いじゃっててさ。親にプレゼント見せながら『はーちゃんに貰ったー!』って」
八幡「あー…………」
沙希「さすがにごまかすわけにもいかなくてね。あんたのことある程度話しちゃった」
八幡「なら仕方ねえな…………んじゃまた近いうちにお邪魔させてもらうか」
沙希「うん、是非来てよ。今度はちゃんとしたあたしの料理を食べてほしいし。この前のは買ってきたものばかりだったから」
八幡「お、川崎の手料理か。楽しみにしてるぜ」
沙希「腕によりをかけるよ。そ、それでさ」
八幡「ん?」
沙希「その……もし、あたしの料理が気に入ってもらえたなら、あの…………」
八幡「何だよ?」
沙希「し、新学期からさ、あんたのお昼のお弁当をあたしに作らせてほしいんだ」
八幡「…………え?」
沙希「…………////」
八幡(川崎は顔を真っ赤にしながら俯いてしまった。これはもう勘違いとか自意識過剰とかのレベルじゃない)
548 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/19(土) 22:58:41.39
八幡「…………川崎」
沙希「な、何?」
八幡「正直お前の腕前の心配はしていない。だから、もう俺からお願いするわ。俺に、弁当を作ってきてくれないか?」
沙希「え……う、うん!」
八幡「あ、あとさ、感想とかはすぐに伝えるもんだし、その…………良ければ、昼、一緒に食べないか?」
沙希「!!」
八幡「い、いや、ダメならいいんだ! ただ言ってみただけだから」
沙希「ううん、平気。その、一緒に食べよ…………」
八幡「お、おう。じゃ、来年から、よろしくな」
沙希「うん…………」
八幡(お互いつっかえつっかえどもりながらも何とか自分の意志を伝える。だけど…………)
八幡(肝心の、言いたいことが言えてない)
八幡(言いたい。伝えたい。俺の気持ちを川崎に)
八幡「川崎」
沙希「な、何?」
八幡「ちょっと話したいことがあるからさ、今日一緒に帰ろうぜ。お前んちまで送るから」
沙希「…………うん、わかった」
549 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/19(土) 22:59:11.67
八幡(もし、総武高校のクリスマスイベントが中止になっていなかったら、今の俺の状況とはまったく違う未来になっていただろう)
八幡(奉仕部や生徒会の連中とイベントを成功させ、クリスマス後は打ち上げなんかもしていたかもしれない。きっとそれはそれで楽しいクリスマスになったとは思う)
八幡(でも、ことここに至っては俺は他の未来を選びたくはない。俺が川崎沙希という少女を好きになってしまったこの気持ちを手放したくはない)
八幡「なあ、川崎。俺さ、お前のこと…………」
八幡「クリスマスイベントが中止?」
~ 完 ~
551 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/19(土) 23:00:12.65
乙乙~
もっとイチャコラして良かったのに…
556 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/19(土) 23:20:20.47
vs奉仕部の修羅場と静ちゃんの後日談マダァ-? (・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン
562 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/20(日) 02:14:54.17
1幡乙!
次回作も期待してるで